テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 小紅は狼狽えて彼の逞しい胸板を押したけれど、力で敵わないのは既に経験済みだ。固く閉じた唇を割り裂いて舌が忍び込んでくる。
「ツ」
 いきなり栄佐が小紅から離れた。彼は濡れたように艶めかしい紅い唇を手のひらでぬぐった。
「これは恐れ入るな。接吻(キス)した女に唇を噛まれたのは初めてだぜ」
 この山猫女め、と、栄佐は薄く血の滲む唇を手で押さえた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ