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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 栄佐は小さく首を振り、手のひらの簪をそっと懐に入れた。
 打出屋の婿に納まった徳太郎のことをふと考えた。徳太郎とは直接面識はない。去年の秋、小紅と徳太郎の間に縁談が持ち上がった。先代の主人夫婦、つまり徳太郎の両親が小紅を気に入って大乗り気、しかも当の徳太郎本人が何より小紅に好意を寄せていたという話は栄佐は後で知ったことだ。

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