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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第16章 【戀月桜~こいつきざくら~】決着~安政六年四月五日宗徳寺

 花叢(はなむら)の向こうに見える月が頼りなく見えるのは、小紅がいつになく弱気だからだろうか。風もないのに、時折、はらはらと小さな花びらが雪のように散り零れ、水面に落ちる。
 清かな月光のせいで、盛りと咲いている花たちが淡く光っているように見える。煌々と照る十五夜の月と濡れたように光り輝くしだれ桜。あたかも螺鈿細工で描かれた美しい光景のようでもあった。
 立ち止まって名残おしげに桜を見上げる小紅を龍馬が振り返る。

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