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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 刹那、小紅は息をするのを忘れそうになった。
「夜逃げをしたというの? おとっつぁんが」
 どうか嘘であって欲しいと思った。
 が、嘉一は首を振る。
「どうやら、夜の中にお出になったようで。布団はもちろん店中、江戸市中もすべて心当たりは探しましたが、見つからないのです」
 しかも、店の金庫からは有り金すべて、更に上州屋の倉に代々伝わっている家宝の骨董なども持ち出せる物はすべて持ち出されてしまっているという。

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