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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第19章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 異変

 あの日の光景のすべてがこんなにも色鮮やかに思い出せるというのに。
 あの幸せな日々は二度と帰らない、帰れない。
―あの日がもう百年も昔のようだわ。
 いつしか熱い滴が頬をつたい落ちていたことにも気づかなかった。そのときだった。 
 長屋の腰高障子が勢いよく開いた。
「姉ちゃん」
 聞き憶えのある声に、小紅は弾かれたように面を上げた。

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