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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第21章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 兄の悩み

 結果として、お彩を内儀として迎えた京屋は更に隆盛を極めたのだから、陽斎の女を見る眼は確かであったといえよう。
 輿平太とは京屋を出たところで別れた。
「本当に何て礼を言ったら良いか判らねえ」
 彼は何度も礼を言って、神田の住まいに向けて帰っていった。
 帰り道、小紅は知らず溜息をついていた。
 心の底では、輿平太から聞いたあの話―栄佐が実は栄太郎と名乗っていた武家の子息だという予期せぬ事実がずっとわだかまっていた。

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