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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第21章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 兄の悩み

 小紅は井戸端で水をくみ上げながら、月もない闇空を心細く見上げた。光のない夜は、まるで永遠に明けない夜のようにも思えてしまう。
 戻り際、家の前に彼岸花が咲いているのを見て、心にポッと灯りが点ったような気がした。父は不吉だと嫌ったこの花が今は何か希望の徴(しるし)のようにも見える。しばらく花を見つめてから、小紅は長屋に戻った。
「食あたりってことはないわよね?」

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