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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第21章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 兄の悩み

「何かそう改まって言われると、ドキッとするけどよ」
「いつか栄佐さんが私に訊いたのを憶えてるかしら。男物の袢纏を私が後生大切に着ているのを見て、一体誰のものなんだって」
 栄佐がまた忙しなく眼をまたたかせた。
「おう、憶えてるさ。忘れるもんか。あれは難波屋のことをお前から聞く前だったな」
「あの袢纏は初恋の男(ひと)のものなの。だから、大切な形見なんだとも言ったわよね」
「ああ、それもちゃんと憶えてる」

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