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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第21章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 兄の悩み

 ある秋の日、小紅の暮らす長屋にも徳源和尚の一団がやってきた。噂の和尚が来たというので、長屋の住人という住人が表に出てきて、ありがたい功徳にあずかろうと我先に集まった。
「大般若般羅蜜多~」
 徳源和尚はこの時、四十二歳、濃い眉が意思の強さを示すような偉丈夫だった。張りのある鍛えた声が朗々と長屋の狭い路地裏に響き渡り、住人たちは皆、頭を垂れて和尚が生き仏であるかのように手を合わせて伏し拝んだ。

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