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　いつもなら栄佐の軽口にすぐに乗ってくる智助がこのときばかりは余計に辛そうに歯を食いしばった。
「長屋の皆さんには本当に何から何までお世話になりました。ご恩は終生忘れません」
　智助の父平三は幾度も頭を下げていた。
　幼い後ろ姿が父親と並んで次第に遠ざかるのを、小紅は栄佐と長屋の木戸口で見送った。
　後に一人前の豆腐職人となり、江戸に帰還を果たした智助は成長したおしまと所帯を持って豆腐屋を構えている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（第二部第四話【悲願花～女になった男～】おわり）