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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆

 栄佐は小紅の方を見ないで応えた。
「俺の父親はもうとっくに亡くなってる。母親は健在だが、俺は役者になると決めて家を出た時、何もかも棄てた身だ。今更、俺がどこで何をしようが、実家とは何の拘わりもねえ。そんな案配で俺の親が祝言に出られないのはお前には申し訳ねえと思うが、気にしないでくれ」
 苦しげで切なそうな横顔を見ていて、小紅はそれ以上は何も続けられず口をつぐむしかなかった。

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