テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿

 小紅の斜向かいに住まうおしかである。
「ちょっと、栄さんってば、聞いてるのかえ」
「ああ、済まねえ」
 栄佐はぼんのくぼに手をやった。
「何を真っ昼間から一人でへらへら笑って、にやけてるんだろうねぇ、まったく」
 おしかは大工の錠吉の女房だ。ついひと月ほど前に痲疹で愛盛りの赤児を亡くした当座は見ていられないほどの憔悴ぶりだったが、今は大分元気を取り戻しつつある。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ