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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿

 栄佐はまだ賑やかに喋っているおしかを尻目に、木戸口に向かって駆けた。当然ながら、そこにあの小柄な男の姿はなかった。当然だ、つい今し方、栄佐自身がここを通り掛かったときだって、あの男らしい姿はまるで見当たらなかったのだから。
 悪態をつきながら、それでもなお用心深く周囲を見回したときだ。栄佐の視界の端をちらりと黒い影がよぎったような気がした。

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