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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿

「親父さん」
 栄佐が初めて仁助を見た。仁助はまだ三和土に座り込み、うなだれている。栄佐はしゃがみ込み、仁助に穏やかな声をかけた。
「こんなところにいつまでも座り込んでねえで、立ってくれよ」
 それは側で聞いている小紅の波立つ心までも凪いでゆくような奥底に滲みる深い声音だった。

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