一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第24章 第二部第五話 【冬柿】 父と娘
私は娘が身売りしなきゃならないと判りきっていながら、逃げたんですよ。鬼のような親だ。だから、帰ってくるまで、小紅が遊廓にいると信じて疑いもしなかった。あの子がいまだに綺麗な身体でいてくれるなんて思いもしなかったから―、鬼のような父親のせいで日毎、夜毎、薄汚い男どもの慰みものになっているのを見るのが怖かった。まったく呆れた身勝手な親でしょう」
仁助の声が震えた。横顔を見ると、皺の刻まれた頬にひと筋の涙が流れ落ちている。
仁助の声が震えた。横顔を見ると、皺の刻まれた頬にひと筋の涙が流れ落ちている。