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　小紅を見た刹那、栄佐はひとめで惚れた。数年越しの恋がやっと実ろうとしている。今日は町人町（ちょうにんまち）の京屋に任されている内職の仕立物を届けにいった小紅と途中で合流した。栄佐も芝居小屋での稽古が午前中だけなので、どこかで鰻丼でも食べて帰ろうかという話になっていたのだ。
　暦はまだ一月、新しい年に変わり正月松の内が過ぎたばかりだが、江戸の町ははや正月気分はどこへやら、普段の気ぜわしさを取り戻している。往来を行き交う人々も皆、先を急ぐかのように足早に通り過ぎていく。