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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第25章 第二部・第六話【春咲く花】 再会

 その時、小紅が〝あっ〟と小さな声を上げた。
「どうした?」
 栄佐が覗き込むと、小紅が泣きそうな表情で見つめている。黒目がちの大きな瞳が潤んで、これだけで栄佐ははや小紅を抱きしめたい衝動に駆られる。
「鼻緒が切れちまったみたい」
「何だ、そんなことか。どれ、貸してみろ」
 栄佐は懐から手ぬぐいを出し細く引き裂くと、小紅の足許にしゃがみこんで切れた鼻緒を器用にすげてやった。

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