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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第25章 第二部・第六話【春咲く花】 再会

「殿、しばし刻を下さりませぬか、それがしはどうしても殿にお伝えしたいことがござります」
 だが、今の自分に源五の懇願を聞き届けることは尚更できない。この十年はあまりにも長すぎた。かつて自分が棄ててきたものも大きかったけれど、今、自分は角倉の家とは比べものにならないほど大切なものを得た。板東碧天という役者としての自分、鍼医として頼りにしてくれている大勢の患者たち、そして、何より生涯でただ一人の女と決めた女。

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