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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第25章 第二部・第六話【春咲く花】 再会

 翌日の昼下がり、小紅は随明寺の山門を抜け、長い石段を降りているところだった。随明寺は黄檗宗の名刹で開基は浄徳大和尚である。毎月初めの和尚の月命日には広い境内に露店が所狭しと並び、大勢の参詣客で賑わう。
 また江戸の花見の名所図絵にも載るほどで、あとみ月もすれば、奥ノ院の傍らの大池のほとりの桜並木が一斉にほころび、遠くからでも辺り一帯が薄桃色の靄に包まれたかのように見える。

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