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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 その傍らには蒼褪めた丸い月が浮かび、清かな光を地上に投げかけていた。吐く息が冷たい二月の夜気に儚く溶けていくが、こういう趣のある夜をそぞろ歩くのも悪くはない。
 小紅は茶店から続く門前道をゆっくりと早春の夜を愉しみながら歩いた。この界隈は昼間でも人通りは少ない。今のこの時間は犬の子一匹見当たらない。

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