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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 小紅、お前は今、どこにいる?
 心で呼びかけても、返事があるはずもない。
 唇を噛みしめ、栄佐は無表情に自分を見下ろす月を眺めた。あまりに強く噛んだせいか、鉄錆びた味が口中にひろがる。先刻まで清らかな輝きを放っていた月が急に色褪せて見えたような気がした。

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