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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 自分でも言い過ぎだと判っていた。母の面から今や血の気は失せ、蝋人形のようになってしまっている。一瞬、苦い後悔が胸をかすめた。栄佐は母が今にも倒れるのではないかと案じたが、瑞容院は黙したまま眼を見開いて宙を見つめているだけだった。
「母上は私が幼い頃、よく言っておられましたね。自分は幸せではないと」

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