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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 あの夜から十日、小紅の方から武平の居室を訪ねることはなかったが、時折、自宅で見かける彼は小紅が丹精こめて縫い上げた袢纏を着ていることが多い。
 互いの気持ちを確認した今となっては、不必要に近づかない方が良い。武平らしい思慮は小紅にはよく判った。たとえ結ばれない宿命にあると諦めていても、互いに想い合う男女が迂闊に近づきすぎれば、越えてはならない一線を越えることにもなりかねない。

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