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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 既にこの日の上客三笠屋信右衛門は到着しており、いつも大勢の芸者や幇間を呼んで賑やかにどんちゃん騒ぎをする信右衛門には珍しく、小紅一人を相手に黙々と酒肴を口にした。
 この少し前、小紅の酌でかなりを過ごした信右衛門、元々酒には強くない質なのか、はや眼許を赤く染めている。信右衛門の前には酒肴を乗せた膳が並んでいたが、最後の一滴を干してしまうと、彼は無造作に膳を脇へと押しやった。

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