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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 水面に向けゆらゆらと浮き上がっていく花びらのように、意識がゆっくりめざめた。小紅が濃い翳を落とす長い睫を震わせ、ゆっくりと眼を開くと、間近に自分を見つめる大切な男がいた。小紅の瞳に映り込んでいるのは、この世の者とも思えないほど美しい男だ。
 そのひとの名は板東碧天。江戸中の老いも若きも女は心を奪われずにはいられない舞台役者。更にそのひとはたくさんの貌を持っている。

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