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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

「だが、小紅。俺が屋敷に戻れば、お前とは」
 小紅は皆まで彼に言わせなかった。
「大丈夫、私はついてゆくわ」
 小紅はもう一度、栄佐を見上げた。江戸中の女を酔わせ泣かせる天下の美男板東碧天の瞳が不安に揺れている。
 おこがましい言い方もしれないけれど、天下の碧天がこんな表情をしてくれるのは、この私だけ。小紅は自分を励ましながら、いっとう明るい笑みを浮かべた。

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