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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

 自らの生命を投げ打ってでも、育ての君を諫めた佐竹源五郎こそが他ならぬ栄佐のゆく末を心底から最も憂えていたのかもしれない。そんな人と一度、心ゆくまで語り合ってみたかったと小紅は源五の死を残念に思った。
 その時、一陣の風が二人の側を吹き抜けた。梢がさわさわと鳴り、桜貝のような花びらが一斉に青空に舞い上がる。それはまるで天から降り注ぐ散華が空(くう)を舞うようでもあった。

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