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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 それでも、涙は後から後から溢れてくる。涙は知らずに熱い滴となり、武平の頬にしたたり落ちた。小紅の涙が武平の魂を死地から呼び戻したのだろうか。
 武平の固く閉じられた瞼がかすかに動いた。
「―こう。小紅」
 消え入るほどにか細い囁きが聞こえた気がして、小紅は儚い期待に胸を震わせた。
「叔父さま?」
 見れば、武平がうっすらと眼を開けていた。

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