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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

「今はそんなことをいっている場合ではないでしょう。良い歳をして、子どものように騒ぎ立てないで、みっともない」
「何だとォ」
 準平が手を振り上げたが、流石に病床ではまずいと思ったのか、渋々手を下ろす。
「小紅、―準平が来たのか?」
 声で判ったのか、武平の力ない問いかけがあった。小紅は視線で準平に促す。
「ええ、たった今、お帰りになったみたい」
 だが、準平はふて腐れた顔でプイと背を向けて立ち去っていった。

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