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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

「いやーっ」
 夢中で漆黒の髪に挿していた簪を抜き、それを男にひと突きした。丁度、押し倒される間際だったので、簪の切っ先は準平の右上腕に刺さった。
「うっ、痛ぅ」
 準平は右肩を押さえ、痛みに苦痛の声を上げる。真冬にひらく寒椿のように鮮やかな緋い血がポトリ、ポトリと畳に落ちた。
「い、いやーっ」
 あまりの惨状に、小紅は叫び、走り出した。

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