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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 と、遠くから男の声が聞こえた。
「何を愚図愚図している。たかが年端のゆかぬ娘一人の足だ。まだ遠くへは行っていない。捜し出して、すぐに連れてこい」 
 あれは準平の声。相当に激怒しているらしく、声はこれまで聞いたこともないほどに凍てついていた。
 今度捕まってしまったら、どんな目に遭わされるか判らない。底のない恐怖が背筋を這い上ってきて、小紅はか細い身体を震わせる。

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