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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間

 栄佐は昨夜もまたやってきて、今日一日分の飯だと言って、お握りを大皿に十個くらい作っていった。そろそろ昼時だろう、久しぶりに空腹を憶え、小紅は枕許の皿に手を伸ばした。
 形も不揃いの握り飯はいかにも無骨な見かけだけれど、塩味がよくきいて美味しかった。ひと口囓り、小紅はあまりの幸福に泣きそうになる。
 武平を失って、もう二度と誰かを好きになることもないと思っていたのに、こんなに優しくて素敵な男とまためぐり逢えた。

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