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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間

「待ちなさい」
 小紅が背を向けようとした時、それまで一語も発さなかった梅光が初めて呼び止めた。
「何でしょう、師匠」
 栄佐が愛想よく応えると、梅光は首を振る。
「お前ではない。その娘さんに訊いているのだ」
「あ、あの」
 小紅は突然のなりゆきにおどおどと栄佐を見た。栄佐にも予想外の展開だったのか、整った面には濃い懸念の色が浮かんでいる。

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