一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
栄佐には難波屋を出てきたことを打ち明けた時、先代の武平が小紅の叔父であること、跡取りの準平は女房の連れ子で実子ではないことも話している。
むろん、小紅の初恋の相手が武平であること、小紅が大切に着ていた袢纏が武平のものだとは話してはいない。武平のことはたとえ栄佐といえども、話せない―小紅の心にずっと秘めておきたい大切な想い出であった。
小紅が黙っているので、栄佐が言った。
「やはり、まずかったか?」
小紅は〝ううん〟と首を振った。
むろん、小紅の初恋の相手が武平であること、小紅が大切に着ていた袢纏が武平のものだとは話してはいない。武平のことはたとえ栄佐といえども、話せない―小紅の心にずっと秘めておきたい大切な想い出であった。
小紅が黙っているので、栄佐が言った。
「やはり、まずかったか?」
小紅は〝ううん〟と首を振った。