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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 だが、返事はない。小紅は構わず腰高を開けて中を覗き込んだ。
「美味しそうな大根を見つけたので、買ってきたの。お揚げと煮たから、食べてみて」
 勢いよく声をかけても、いらえはなかった。小紅は形の良い眉をひそめた。
「入るわよ?」
 小紅は声をかけてから、すっと中に身を滑らせた。そろそろ秋の陽も傾こうかという刻限だが、室内は灯りも入っておらず、薄い闇で満たされている。

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