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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 栄佐は長身を壁に凭せかけ、膝を抱えていた。良い歳をした大の男が五つの幼児のような仕種だ。小紅はそんな彼を一瞥し、判らないように溜息をつく。
「その様子じゃ、一日中、ずっとそこにいたんじゃない? どうせ朝も昼も食べなかったんでしょ。そんなことじゃ、駄目よ。ちゃんと食べないと、お芝居にも出られなくなっちゃうんだから」
「―もう舞台に立つ気はねえよ」
「え?」

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