テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 小紅が言いかけるのに、栄佐が突如として吠えた。
「なら、簡単になんて言うなっ」
 あまりの剣幕に、小紅がビクッと身体を震わせた。
「ここまで来るのに何年かかったと思ってる? 七年だぜ。十六で家を飛び出して七年、大部屋をやってきた。何度、こんな想いをしたか知れねえ。もう、たくさんだ。今度は演(や)れる、大丈夫だと自分を励まして最後まで望みを繋いで、その度にいつも夢は破れた」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ