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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

「済みません、私の方こそ小紅さんを困らせてしまったようだ。ですが、小紅さん、今のあなたの様子を見て私は決めた」
 小紅は瞳を揺らし、市兵衛を見上げた。何を決めたというのだろう。と、彼は淡く微笑し、小紅に見当違いのことを言う。
「饅頭をどうぞ」
 何も咽を通るとは思えず、小紅は小さく首を振る。
「甘いものは嫌い?」
「いいえ、でも、今はお腹が一杯で」

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