テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 先日、京屋から引き受けた内職にも取りかかったばかりだ。ここのところ仕立物をしても考え事に耽り、気がつけば手が止まっていることが多く仕事ははかどらない。早く帰って続きをしなければと気が急いた。
「待って下さい」
 ぺこりと頭を下げて踵を返そうとしたその背に、市兵衛の声が追いかけてきた。小紅はハッとして立ち止まった。市兵衛がゆっくりと歩いてきて、小紅の前に立った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ