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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 誰よりも温かく優しい心を持ちながら、いつも背筋をすっくと伸ばしていたしっかり者の乳母、栄佐を甘やかし溺愛する母と異なり、栄佐が悪さをすればピシリと手を叩いて叱り、悪いことは悪いことと身をもって教えてくれた―。
 屋敷を去って数年後、乳母が病死したと知った。乳母と親しくしていた奥女中の一人がそっと耳打ちしてくれたのだ。
―おたつ、済まぬ。知っていれば、たとえ母上にぶたれようと、そなたに逢いにいっていたのに。

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