一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
幸か不幸か小紅と見知らぬ若い男が並んで座る椅子からは斜め前方にいる栄佐は死角になって見えにくいはずだ。茶店の周囲に日除けの葦簀(よしず)が立てかけてあるのもこの場合、栄佐に味方してくれていた。
―それにしても、あいつは誰なんだ?
栄佐は知らず拳を握りしめていた。
小紅と寄り添うように馴れ馴れしく座り込んで親しげに話している男、その男を栄佐は知らない。見たところ、着ているものは縞柄の大島紬で上物だ。ゆったりとしたその物腰は落ち着いて洗練されている。
―それにしても、あいつは誰なんだ?
栄佐は知らず拳を握りしめていた。
小紅と寄り添うように馴れ馴れしく座り込んで親しげに話している男、その男を栄佐は知らない。見たところ、着ているものは縞柄の大島紬で上物だ。ゆったりとしたその物腰は落ち着いて洗練されている。