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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬

 泣きそうな与助から手を放すと、今度は今にも噴火しそうな勢いの多吉の腕を引いた。
―多吉っつぁん、まあ、気分直しに一杯やろうぜ。なに、こいつの言うことなんざ、気にするこたァねえさ。お前さんの女房があんまり仇っぽいから、悋気のあまり、あることねえこと言ったのよ。
 そう言いながら、素早く多吉の盃に酒を満たしてやった。
―そ、そうかな。
 満更でもない様子で多吉が首を傾げる。

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