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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬

 ずしりと持ち重りのする巾着を懐に入れて歩いていると、何だか心まで重たくなってしまったようだ。小紅は真っすぐ長屋に帰る気にもなれなかった。気がつけば、いつしか脚は随明寺に向き、通い慣れた長くて急な石段を一段一段踏みしめるようにして登っていた。
 今日は本堂も素通りして、そのまま奥を目指した。絵馬堂の前まで来ると、堪えていた涙がどっと溢れ出してくる。

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