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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬

 市兵衛の黒い瞳はどこまでも真摯で、小紅への思いやりに満ちている。こんな瞳をした人にごまかしはきかない。小紅は自分がかつて上州屋の娘であったこと、すべてを失い天涯孤独になった後、伯父の難波屋武平に引き取られたことをかいつまんで話した。
 愕いたことに、市兵衛はそこまではおおよそのなりゆきを知っているようであった。恐らくは母お彩から聞かされたのだろう。

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