一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐
市兵衛の視線がふっと横を向き、障子の開け放たれた庭に注がれた。半月前は盛りと咲いていた萩も既に大方は散っている。京屋ほどの大店であれば使用人の数も多く、掃除は行き届いていた。萩の花びらは雪のように散り零れるものだけれど、小さな花びら一枚見当たらない。
「どうも陽差しが眩しくていけない」
十月になり、陽差しは随分とやわらかくなった。朝夕にすだく虫の音も興趣を誘い、日毎に秋が深まってゆくのが判る。それほど陽差しが眩しいとも小紅は思えないのだが。
「どうも陽差しが眩しくていけない」
十月になり、陽差しは随分とやわらかくなった。朝夕にすだく虫の音も興趣を誘い、日毎に秋が深まってゆくのが判る。それほど陽差しが眩しいとも小紅は思えないのだが。