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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐

 市兵衛がまた眩しげに眼を細めて、視線を庭に投げた。
「謝らなくて良い。別れるときに惚れた女から謝られると、男は傷つきます。私をこれ以上、惨めな男にしないで下さい」
 市兵衛はやや低い声で言い、更に思いもかけぬことを言った。
「それから、余計なことかもしれませんが、小紅さんはこれからどうするつもり?」
 え、と、小紅は顔を上げた。市兵衛の思慮深げな視線がこちらを見つめている。

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