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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐

 長屋の前まで戻ってきた時、栄佐が狭い路地裏を行きつ戻りつしているのが眼に入った。
 小紅を認めると、彼の端正な顔が一瞬、泣きそうに歪んだ。小紅はこの時、本当に栄佐が泣き出すのではないかと危ぶんだほどである。栄佐は真っすぐに小紅に近づいてきた。
「この間は済まねぇ」
 彼は頭を下げたまま言った。

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