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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第11章 第一部第三話【月戀桜~つきこいざくら~】 疑惑

 年が明けて二月、あとふた月もすれば、江戸には桜が咲くというのに、栄佐の綺麗な顔はまるで永遠に春など巡ってこないとでも言いたげである。
 小紅は溜息を一つ落としてから、眼の前の腰高障子に手を掛ける。と、中からいきなり戸が開いたので、小紅は愕いて危うく悲鳴を上げるところだった。
「栄佐さん、たった今、随明寺の桜団子を買ってきたの、良かったら一緒に」
 言いかけた小紅をチラリと見、栄佐が笑った。

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