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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第11章 第一部第三話【月戀桜~つきこいざくら~】 疑惑

「栄佐さんの患者は多いのに、今、止めちまったら、皆困るわよ」
 栄佐はそれには何も応えず、そのまま足早に去っていく。とうとう振り向くことすらなかった。その長身の後ろ姿が木戸口を抜けていくのを見送りながら、小紅は更に深い息を吐き出した。
 この分では帰りはいつになるか判らないし、帰ってきたとしても、訪ねたりせず、そっとしておく方が良いだろう。小紅は桜団子の入った竹の包みをそのまま栄佐の住まいの上がり框(がまち)に置いておいた。

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