ソウル・雨─AtoZ.
第3章 霖雨
自室から出て来たユノは片手に銀色のレインコートを抱えている。木製のボタンが付いたショート丈のコート。
浴室に通じるドアの前を通り過ぎた。中から微かな振動に水音が混じって耳に届いた。 廊下の先の玄関ホールに向かおうとして、襟首を掴まれ壁に叩きつけられる。 …浴室で衣類とバスタブを洗い、乾燥機をかけていたらしく、チャンミンの体からオレンジの洗剤の匂いがした。「─何処行くんです?僕に黙って…酷いなぁ」手首を掴むと、レインコートが落ちた。
手首を捕らえられ、壁に背中を押しつけられてもユノの少し歪んだ口元は、笑っているように見える。
まだ水気の残る手で無造作にユノの襟元を探る。「…行き先なんかどこでもいいんです」腰骨を砕くほど握った。身を捩ろうとするユノに「先刻、待ってたって…こういうことなんです」顔を上に向け、口を開きかけたユノの頬を掌で押さえ「じっとしてれば…すぐ…、済ませます─僕も用事あるし」
─玄関ホールの扉を開ければエレベーター・ホール。 ホールは総ガラス張り…また雨雲が重なったらしく、午前中なのにもう夕方近い暗さ─
浴室に通じるドアの前を通り過ぎた。中から微かな振動に水音が混じって耳に届いた。 廊下の先の玄関ホールに向かおうとして、襟首を掴まれ壁に叩きつけられる。 …浴室で衣類とバスタブを洗い、乾燥機をかけていたらしく、チャンミンの体からオレンジの洗剤の匂いがした。「─何処行くんです?僕に黙って…酷いなぁ」手首を掴むと、レインコートが落ちた。
手首を捕らえられ、壁に背中を押しつけられてもユノの少し歪んだ口元は、笑っているように見える。
まだ水気の残る手で無造作にユノの襟元を探る。「…行き先なんかどこでもいいんです」腰骨を砕くほど握った。身を捩ろうとするユノに「先刻、待ってたって…こういうことなんです」顔を上に向け、口を開きかけたユノの頬を掌で押さえ「じっとしてれば…すぐ…、済ませます─僕も用事あるし」
─玄関ホールの扉を開ければエレベーター・ホール。 ホールは総ガラス張り…また雨雲が重なったらしく、午前中なのにもう夕方近い暗さ─